すれ違う心と心 [あの日から今日まで]
途方に暮れて泣いてばかりいたわけではない。
夜更けと共に、少し落ち着いた気持ちをとり戻して、何をしなければいけないのか?出来ることは何か? そんな事を考えていた…。
自分の気持ちだけを優先させる事が許されるのであれば、何かを考えたり出来るような状態ではなかったけれど、明日からの事を思えば逃げてばかりはいられない状況だったからだ。
山積した問題を一つづつ切り崩していくことから始めてみた。
”彼”にどう思われていてもいい、何かの理由がなくても”会える”この場所を失うのだけは嫌だった。
それは、ともすれば”彼”も私も”好奇の目”で見られていわれなき中傷の標的となるリスクを背負うという事でもあるのだ。 私はいい。半分は本当のことだから…。 でも、私の油断で”彼”を巻き込むような事だけは避けなければいけない…それだけは絶対にだ。
複雑にもつれてしまった”誤解”を解くのはこの際後回しでいい…そう思った。
そして、数時間後には確実にやってくる”日常”に向けて、私の心に”一つの決意”があった。
眠れぬまま朝を迎え、”一つの決意”を胸に出勤する。
朝のミーティングの終了と同時に、私は社長を呼び止める…
「お話があります。お時間をいただけませんか?」と。
その日の社長のスケジュールは把握していた。
「ん…。わかった。この後すぐに来客があるよね?その後じゃまずい?」
「いえ。急ぎません。」 (その方が好都合だった。)
「じゃ…十時からってことにしよう。」
その時間に面談していれば、”彼”に会わなくていい…と思った。 会いたくないのではない…本当は今こそ一番会いたい時かもしれない。 ただ、この混乱した気持ちに何か一つくらいは、確固たる答えを見つけ出してからでなければ会えない気持ちだった。
そして、その答えを出す時は来た。
「美由…今からならいいよ。応接がいいか?」
「はい。お願いします。」 (頑張れ ワタシ)
「で、何?改まって。」
「あの…今の仕事に人員を一人でもいいので増員していただけませんか?」
「一人じゃシンドイってこと?」
「いえ…。仕事がしづらくなりました。」
「ああ…。昨日の話?ゴメン、ゴメン!俺は美由を疑ってないよ。笑」
「それはわかっています。でも、そういう事があった以上、課長に限らず偏見の目で見る人は他にもいるのは当然で…。なのに何故?女子社員ですか?」
(”彼”の言葉を思い出して、やんわりと問いかけた…。)
「うん。わかった!でも、美由は大丈夫だって思ったのは本当だよ。じゃなきゃ女子社員を窓口担当にするはずがない。あれからは美由が来るまで男子社員に任せてたんだよ、ただ、ああいう仕事はきめ細かい配慮ができる女子のほうがミスがない。 それとも、外して欲しい?」
「いいえ。誰か事実を認識している人をサポートとして就けていただければ…」
「余計な詮索されないで、仕事が出来る…ってわけだ 笑」 (さすがに、話が早い!!!)
「そうですね…。 笑」 (やっと少し笑える余裕が出た。)
「OK!そうしよう。」
その後、フットワークのいい社長はすぐに物流部門から若い男子社員をサポートに就けてくれたのだ。
”サポート”とは名ばかりの”監視役”を自ら希望したようなものだ。 仕事中に≪大好き≫が溢れ出さないように戒めるため自分で自分に足枷をつけた。
(これでいい。)あとは私が”彼”への気持ちを”封印”するだけで”彼”を好奇の目にさらすことは回避出来るはずだ…と思った。
その日の午後…いつも通りの時間に”彼”が来た。
「毎度…」 そう言って、朝は居なかった私を”じっと”見た。
「今日からもう一人男性がサポートしてくれることになったから、よろしくね!××さん!!」 (”雅さん”と呼ぶのは止めにした。)
また苗字で呼ばれた事で何かを感じとった様子で、今度は”どういうこと?”言いた気な目でもう一度、私を”じっと”見た。
「了解!」そう言って。仕事を済ませて帰って行った直後、携帯が二度鳴った。
二度の電話が”彼”であるとわかっていたけれど、どちらとも出る事はしないでおいた。 今、手短に話せる内容ではないと思ったからである。ドキドキしながら話をして、また大事な言葉を言い漏らしてしまったり、いい間違えたりするのが怖かった…。
以前なら、夜電話をくれるのを待っただろう…。でも、昨日の電話で”彼”から掛かることはナイとわかっていた。
たくさんの思いを整理して、たくさんの言葉を用意して、ありったけの勇気で私から”彼”に電話をした…。
≪お掛けになった電話番号は電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないためかかりません≫とくり返された …。
そんなご丁寧に言われなくても、≪電源が入っていません≫で済むことだ。
今度は何も言わなかった事で、すれ違ってしまった心…。
”彼”にしか向いていない私の心が、こうもすれ違ってしまうのは、そもそも”彼”の心が私に少しも向いていないから…と証拠を突きつけられた気分だった。
コメント 0