プライベートタイム [あの日から今日まで]
元来、私という女は”待つ”という事を苦痛と感じないタイプであり、それを”臆病”だとか”プライドが高い”と言われてしまう時もあったけれど、その全てを肯定した上で私なりに”待つという美学”を確立している。
”彼”に会うことが出来なかったこの日も、時を重ねるごとに膨らむ(会いたい)(声が聞きたい)気持ちを抱えたまま…わずかに感じた”予感”を信じて携帯とにらめっこしていた…。
それは、いつかの夜の様に”約束”されたものではなく、待ちぼうけを覚悟しての”待ちの身”である。
(やったぁ) 気分は喜喜楽楽である。 ところが!正確に言えば”彼”の携帯から別の男性が電話していたのだ…。
「もしもし?」 (”彼”ではない! じゃあ誰?)
「はい?」
「”美由”って僕が前に行ってた会社の事務員さんだよね?」
(テッチャンだ!)←”彼”の前任者
「…。」 (返事をしていいものかどうか迷う。)
「最近の雅サンは何か秘密があると思ったら、そうゆう事かぁ(笑)」
「そうゆう…って別に何も…」 (どうしようと焦った)
「ゴメン変な意味じゃないよ、今も忘年会の二次会なんだけど…地下の店はダメとか言うし、呑んでても携帯ばっか気にしてて、おかしいんだー」
「で、何で私にテッチャンが電話してるの?」
「トイレに行った隙に携帯見た…」 と言いかけた所で”彼”が戻って来た。
≪徹!お前、何を人の携帯でやってんだよ!≫
≪あっ!雅サンが待ってた人じゃないっすか?電話鳴ってたんで…≫
≪ふざけんな!≫ そんな会話が電話越しに聞こえた。 (私じゃないのに)
「もしもし、美由?」 (すぐに私の名前が出たことがうれしかった…でもよろこんではいられない)
≪みんな聞いたぁ~”美由”だって!雅サンが怪しいです~≫←徹
「はい…でも私じゃないよ…。」 (そんなこと出来たら、とっくにしてるもの…)
「わかってる…ゴメン気にしないでいいから。」
≪徹!お前、後で覚えてろ≫
≪美由サン!今から来ませんか~僕を助けてください~≫←徹
「うん。わかった…じゃあね!よいお年を(笑)」
≪誘え誘え誘え………≫←仲間一同
「…そうゆう事らしいケド…来る?」
「…。」 (本気なの?返事に困る私。)
≪来い来い来い………≫←仲間一同
「仲間内の二次会だから余計な心配いらない(笑)来られるなら迎えに行くよ?」
「うん。じゃあ行く」
”会えない”かも…と半分諦めていたところで、”彼”がイイと言うのであれば…私に断る理由は何もナイ。
その上、ユニフォームではない”プライベートタイムの彼”に会えるとなれば、心は躍る…。
数十分後、携帯で説明を受けながら到着した”彼”の乗ったTAXIが、私を乗せて同じ道を戻る…。
その車中で、初めて並んで座る感動と、車が揺れる度に触れる肩と肩にドキドキした…
「子供たちは大丈夫なの?」
「ん。年越しは親の実家でするから…もう千葉に行ってる。」
「雅サンは?」
「俺は明日行く…。」
「そう…。」
(千葉かぁ遠いな…)と一瞬そう思った。
でも、今から過ごす初めての”プライベートタイム”を思えば、残りの数日”会えない”淋しさなど取るに足りないことじゃない…と思い直した…。
それもこれも、体温を感じる距離に”彼”という存在がいてこその想いである。
二次会のお店に着いて、一つ目の扉を”彼”が開いた時…初めて自分が今ココに居る事の大胆さに驚いて、急にためらいの気持ちが湧いた。
「大丈夫だって…(笑)」そう言って私の手を捕って”彼”が二つ目の扉を開けた。
ほんの一瞬だけ繋がれた”手”に安心を感じながら…まだそこにある、かつての結婚の証が”彼”と私の間にある微妙な距離を思い出させたのである。
迎えに出る前に、”彼”から何かしらの説明がされていたのだろう…電話の時の”悪乗り”に近い雰囲気はまったく消えていて、もう一人仲間が遅れてやって来た…という様な自然な空気があった。
”彼”の気遣いはもちろんのこと、仲間とその”奥さん”や”彼女”たちから受けた心遣いには、涙が出そうなくらい感謝している。
そして、一番に感謝すべきは”悪乗り将軍”のテッチャンである事は、数年後の今も忘れてはいない。
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