事件簿Ⅱ ホワイトデー~秘密がバレた~ [あの日から今日まで]
戦わずして終わったバレンタインデーから1ヶ月後…。
≪私には関係ない日…。≫そう決め込んで、普段通りに仕事をしていた。
でも、この時期には私の心の中に、ぼんやりとではあるが”決意”のようなモノを感じながら過ごしていた…。
その日のダイアリー…。
《1999.3.12.fri 日記より抜粋》
”とうとうバレた…もう隠せない。” そんな事件が起きたのだ。
”義理返し”の山を整理して、浮かれモードを振り切って午後の発送に向かってオフィスを出る。
配送センターの搬出口には、もう既に”彼”が到着しており、相棒の亮クンと何やら男同士の会話を楽しんでいた
「お待たせ~!さぁ!お仕事、お仕事。」
「美由サン遅いっすよ(笑)」
「ごめんね、”義理返し”につかまってた(笑)」
「あっ!そういえば、雅サンからは無しですか?」
「だってさぁ~この人、腹減ったからって、俺の分のチョコを食っちゃったンだぜ!」
「マジっすか!!!それじゃ、手ぶらでも当たり前ですよ(笑)」
「だろ?でも、一応用意したんだけど…さっき腹減ったから食べた(笑)」
「爆笑!雅サンも、やりますねぇ~(笑)」
「余計なおしゃべりしてないで!シ・ゴ・ト」
そんな私の”号令”でそれぞれの位置について仕事を始めた…そのわずか数分後、事件は起きてしまった…
「きゃあ~」 (もしかすると”ぎゃあ~”だったかも…。)
1つ1つの荷物をチェックしながら、搬出口まで設置されたローラーの上を荷物と一緒に滑っていた。いつも通りの事なのに…考えられない事だけれどローラーとローラーの間に足が挟まってしまったのだ
私的に転んだり、ぶつけたり…などというコトは日常茶飯事で、それ自体は大したコトではない。
事件というのはこの後の事である…。
私の悲鳴を聞いて、積み込みをしていた”彼”とリフトから荷物を降ろしていた亮クンがほぼ同時に、私のもとに駆けつけてくれた。
慌てた”彼”は一瞬、亮クンの存在を忘れたのだろう。
「美由どうした」と私を呼び捨てで呼んでしまったのである。
その上、私も痛みと怖さで”彼”と同様、亮クンが見ているのにも関わらず
「雅サン、足…痛い。」そう言って”彼”の手をとってしまった。
「だ、大丈夫ですか?美由サン!」と亮クンが口を開くまでのわずかなタイムラグが”その事”に気付いたという証拠。
ローラーに挟まった私の足を見て固まった…とは思えない、バツの悪そうな顔で「ボク、ローラー外す工具を取りに行きます!!!」と言ってその場を離れた。
「どうしよう…亮クン、気付いたよ。」
「何が?」
「雅サンが”美由”って呼んだコト…。それに、私も…。」と言いかけたところで”彼”が怒鳴る。
「だから何?こんな時にそんなコトどうでもいいだろ!!!」
「でも…。」 (叱られた怖さよりも心配が大きくて食い下がる私。)
「俺はいいよ。どう思われても…それより立てる?」 (この時は優しい言い方だった。)
”彼”のこの言葉で完全に落ち着きを取り戻し、支えられて立とうとした時!
とんでもない事が、私にだけ解かってしまった…。
≪スリッパを脱げば足は抜ける…確実に≫
「どうしよう…私。」
「マジで怒らせたい?」
「違うの…足…抜けるの、ほら…。」
「ほら?じゃねぇ!アホか!!!」 (そう言って私のおでこを”ペシッ”とぶった)
安心と呆れから、堪えきれない笑いで顔を真っ赤にしている…。
≪穴があったら入りたい≫心底そう思った私である。
「足の痛み我慢出来るなら、元に戻す?亮クンに悪いし、恥ずかしいだろ?」
「うん…。わかった、そうする。」
「で、”無事”外したら(笑)そのまま病院に行けばいい。さっきの事は俺が亮クンに話すから、心配いらない。」
私がジタバタ動いて、いい結果が出たためしがナイ!そう思って”彼”の提案に甘えることにした。
その後、事件を起こしたまま病院へ避難した私に亮クンから電話が入った。
「怪我はどうですか?今から迎えに行きます(笑)」
「ありがとう。捻挫で済んだから自分で帰れるよ。」
亮クンが何も言わないのに、私から切り出すのもおかしいかと思い、その場では何も言わずに電話を切った。
けれど、亮クンは車で迎えに来てくれて、その帰り道に言葉すくなに言った。
「美由サン、ボクは何も聞いてないし、見てない。それでいいですよね?」
「うん…。何て聞いたの?」
「それは、男同士の秘密ですよ。(笑)」
”彼”と亮クンの間でどんな会話がもたれたか?非常に気になるところではあるけれど…この時、私の心は大きく揺れていた。
今回は事なきを得た…でも、いつかはこんなラッキーに救われない時が来る。
怖さで揺れていたのではナイ。前に進むために、想いは揺れていたのである。
≪もう、逃げられない!立ち止まっていられない!≫
≪もう、隠しきれない!この想いを隠したくない!≫
私の心の中に”ある決意”が今ハッキリと姿を現した…。
そして、それを決意させたのは”彼”の言葉。
≪俺はいいよ…どう思われても。≫
”彼”がそう思っていてくれるのであれば、私は何も怖くない…。
そう心を決めた時、気付いたのである。
”彼”に会いたいと思う気持ちばかりで…気付けなかったコト。
でも”彼”との距離を縮める為には絶対に避けられないコト。
そして今、私にしか出来ない”勇気ある一歩”
”彼”に無条件で会える”この場所”との決別…。
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